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最高裁判所第一小法廷 平成7年(オ)1060号 判決

上告人

信用組合大阪商銀

右代表者代表理事

大林健史

右訴訟代理人弁護士

曽我乙彦

中澤洋央兒

安元義博

被上告人

興亜工業株式会社破産管財人

豊蔵広倫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人曽我乙彦の上告理由について

本件は、破産者興亜工業株式会社(以下「興亜工業」という。)が所有する一審判決添付物件目録記載の建物について、上告人が、平成三年一〇月一一日に締結されたとする根抵当権設定契約に基づき、不動産登記法三三条による仮登記仮処分命令を得て根抵当権設定仮登記(以下本件仮登記」という。)をしたことに関し、興亜工業の破産管財人である被上告人が上告人に対し、破産法七四条に基づき本件仮登記の否認登記手続を求め、これに対する反訴として、上告人が被上告人に対し、本件仮登記に基づく本登記手続を求めている事件である。そして、原審が適法に確定したところによると、上告人と興亜工業は、平成三年六月一四日、信用組合取引契約を締結したが、興亜工業は、平成四年三月二五日、自己を引受人とし、上告人の布施支店を支払場所とする金額三六五六万五〇〇〇円の為替手形を資金不足を理由に不渡りにしたこと、上告人は、興亜工業が右の為替手形を不渡りにしたことを知って、同月二七日、大阪地方裁判所に前記仮登記仮処分命令の申請をし、その決定を得て、同年四月二日、本件仮登記に及んだこと、興亜工業は、同月二四日、債権者から破産の申立てを受け、同年五月一四日、大阪地方裁判所で破産宣告を受けたことが明らかである。

ところで、仮登記は、それ自体で対抗要件を充足させるものではないが、本登記の際の順位を保全し、破産財団に対してもその効力を有するものであるから、仮登記も対抗要件を充足させる行為に準ずるものとして破産法七四条一項の否認の対象となるものと解すべきである。そして、破産者の支払停止の後に、これを知った根抵当権者が不動産登記法三三条による仮登記仮処分命令を得て根抵当権設定仮登記をした場合には、破産管財人は破産法七四条一項によって右行為を否認することができるものと解するのが相当である。けだし、権利の変動について対抗要件を充足させる行為は、破産者の行為又はこれと同視すべきものに限り否認し得るものであるところ(最高裁昭和三七年(オ)第三七四号同四〇年三月九日第三小法廷判決・民集一九巻二号三五二頁参照)、仮登記仮処分命令を得てする仮登記は、仮登記権利者が単独で申請し、仮登記義務者は関与しないのであるが(不動産登記法三二条)、その効力において共同申請による仮登記と何ら異なるところはなく、否認権行使の対象とするにつき両者を区別して扱う合理的な理由はないこと、実際上も、仮登記仮処分命令は、仮登記義務者の処分意思が明確に認められる文書等が存するときに発令されるのが通例であることなどにかんがみると、仮登記仮処分命令に基づく仮登記も、破産者の行為があった場合と同視し、これに準じて否認することができるものと解するのが相当であるからである。

以上の見地に立って本件をみると、前記の事実関係によれば、上告人は、根抵当権設定契約の日から一五日を経過した後に、興亜工業の支払停止を知って、仮登記仮処分命令の申請をし、その命令を得て、本件仮登記をしたものということができるから、被上告人は、破産法七四条一項によりこれを否認することができるものというべきである。根抵当権設定登記がされなかった原因が興亜工業にあるか否かは、右判断を左右しない。原審の判断は、右と同趣旨をいうものとして是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決の結論に影響のない事項について原判決の違法をいうか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官小野幹雄 裁判官高橋久子 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友)

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